ビートルズってロシア人? Episode 2
フォークダンスと問われて「マイムマイム」や「オクラホマミキサー」と答えるようなら、あなた方のフォークダンスキャリアなどたかが知れている。僕なら、迷わずにこう即答するであろう
「Ob-La-Di,Ob-La-Da」
そう、僕たち『いけてるダンサーズ』の十八番は、マイムでもオクラでもなく、Ob-La-Di~だったのだ。
誰がOb-La-Di~に振り付けを施こそうなどと酔狂なことを思い付いたのかは知りたくもないが、Ob-La-Di~は、指先からつま先にまで絶えず神経を集中しながらステップを刻み、その上、大きな人の輪が崩れることのないように、外側の人は左回りに、内側の人は右回りに弧を描いていく、非常に難易度の高い異色フォークダンスナンバーであった。
このOb-La-Di~を難なくこなす僕たちに言わせれば、マイムやオクラはダンスのうちに入りはしない。
キャンプファイアーも佳境を向かえ、練習の成果を遺憾なく発揮した『いけてるダンサーズ』が喜びに打ち震えていたまさにその時、ある先生がスピーカーを手に声を発した。
「みなさん。本当に上手に踊れましたねー。」
入学以来、まともな勉強もせずに踊ってばかりいるんだから、上手くて当たり前である。
しかし、ひとたび上機嫌となった先生を制止するのはかなり難しい。
「ところでみなさん、Ob-La-Di,Ob-La-Daは誰が作った曲か知ってますかー?」
今にして思えば、その先生にとっては会心の質問だったに違いない。くりくり頭の男子生徒あたりが(当時僕の中学では、男子は丸坊主、女子はお下げか三つ編みが原則であった)、まだにきびもない愛くるしい笑顔で、声高らかに「びーとるずー」と楽しげに答えるのを期待していたのだろう。もしその先生が熱烈なビートルズファンであったら、可愛い教え子のそんな反響はもう恍惚ものであったに違いない。
しかし、そんな先生のもくろみは見事に崩れ去ることとなる。残念ながら、入学以来フォークダンス三昧で、アルファベットすら満足に書けない約200名の英語音痴には少々酷な質問であったようだ。もっとも、英語音痴でなくとも「おぶらでおぶらだ」と聞いてアルファベットを連想するのは至難の業であるが。
この後、定番の「遠き山に日は落ちて(By ドボルザーク)」を大合唱するスケジュールが組まれていた「くりくり&おかっぱ集団」は、その前に「知りませーん」を大合唱するはめとなった。思わぬスケジュールの変更である。
ここで思い直してみるに、そのときに1%ぐらいは正解を答えていたのかも知れない。しかし、得てして「知りませーん」の大合唱にはかなわない。これを「常識」と言うのではないか。
ちなみに、質問そっちのけで「おぶらでおぶらだ」のステップを夢中で反復していた僕の横のおかっぱの姿は、今なお脳裏にしっかりと焼き付いている。「おぶらでおぶらだ」には、『いけてるダンサー』をそこまでに駆り立てる何かがあるのである。
ちょっと話を引っ張りすぎた感があるが、とにかく当ての外れた先生が「ビートルズですね」と自ら答えるのを聞き、
「びーとるず?聞いたことあるな。フォークダンスの曲を作るってことはロシア人か」
と、僕はひとまず自己完結するに至るのである。幼少のみぎりからマイムマイムあたりを嗜んでいた僕が、フォークダンスの曲を作るのはロシア人であるという認識を持っていたとしても、責められるいわれなどない。
なお、
タッタカ タッタカ タッタッタッター(タの数は合ってるかな?)
とOb-La-Di~のイントロがなるだけで、条件反射のように陶酔状態に陥る当時の僕たちは、「イジメ」などとはてんで無縁であったことは言うまでもない。
僕たち『いけてるダンサーズ』は、キャンプファイアーの炎よりも一足早く、真っ白な灰と燃え尽きていた。
