ビートルズってロシア人? Episode 8
Episode1からお読みください。
『Please Please Me』は、買いたくて買ったレコードではない。帰宅した僕は、服を着替えて一度外に遊びに行く。そして夕食後、自分のその後の運命をも変える瞬間を迎えるのだった。
当時、決して裕福とはいえなかった僕の家にはステレオなどなかった。うまく説明できないが、ターンテーブルの隣に小さなスピーカーが付いているレコード再生機に『Please Please Me』を乗せて、針を落とす。
「One Two Three Four!」。Paulのシャウトで始まる『I Saw Her Standing There』。何でもないようなこの曲の入り方一つで、まだ子供だった僕はしびれてしまった。最後の『Twist And Shout』まで、とにかくすべての曲が格好いい。メロディーが美しい。ハーモニーが美しい。エレキギターが激しい。
こんな感動、それまで味わったことがなかった。たった12年の人生と言われればそれまでだが、その短い間にも、もちろん嬉しいこと、楽しいことはたくさんあった。しかし、この感動は質量ともに桁違いだった。腹の底から喜びが湧き上がり、思わず叫ぶ僕。
そして・・・。先生の『神託』はやはり本当だった。気が付いたら、背筋がゾクゾクとし、全身に鳥肌が立っている。曲は『Yesterday』ではなかったが、ビートルズを聴いて確かに鳥肌が立った。世の中には、これほどまでに崇高なものがあったのか。
幼いながらも持っていた価値観の基準が大きく音を立てて崩れ、その後の僕の青春はビートルズを中心に形成されていくこととなる。もちろん、逸話も満載。しかし、それは次の機会にしたい。
そうそう、これだけは触れておこう。『Yesterday』は、アルバム『Please Please Me』を100回ほど聴いた後、鼻の穴から『赤』を借りて聴くことになるのだが、12才の僕には正直だるかった。一生聴いても鳥肌など立つはずもないと思っていた。しかし、あれは中学校3年生の夏。台風のため、雨戸をすべて閉め切った家の中で『赤』を聴いていた。そして始まるフォークギターのイントロとそれに続く「Yesterday~♪」というPaulの甘い声。まさしくその瞬間だった。ヘレンケラーが水に触れたときによみがえった記憶「Water」。その感動と同質のものといったら大げさだろうか。
それまで、感動のあまり叫んだり鳥肌が立つことはあっても、こんなことはなかった。そう。泣いているのだ。自分でもこの涙の説明がつかない。涙というのは、痛かったり悲しかったりするときに出るものではないのか? しかし、今の僕は『Yesterday』を聴きながら涙している。
それから20年以上たった今でも、『Yesterday』は僕の大好きな曲の一つ。僕の宝物の一つ。
ロシア人だと思っていたビートルズの熱狂的なファンになるまでのお話は、これにてひとまずおしまい。




