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2004年09月28日

ビートルズってロシア人? Episode 8

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Episode1からお読みください。

『Please Please Me』は、買いたくて買ったレコードではない。帰宅した僕は、服を着替えて一度外に遊びに行く。そして夕食後、自分のその後の運命をも変える瞬間を迎えるのだった。

 当時、決して裕福とはいえなかった僕の家にはステレオなどなかった。うまく説明できないが、ターンテーブルの隣に小さなスピーカーが付いているレコード再生機に『Please Please Me』を乗せて、針を落とす。

 「One Two Three Four!」。Paulのシャウトで始まる『I Saw Her Standing There』。何でもないようなこの曲の入り方一つで、まだ子供だった僕はしびれてしまった。最後の『Twist And Shout』まで、とにかくすべての曲が格好いい。メロディーが美しい。ハーモニーが美しい。エレキギターが激しい。

 こんな感動、それまで味わったことがなかった。たった12年の人生と言われればそれまでだが、その短い間にも、もちろん嬉しいこと、楽しいことはたくさんあった。しかし、この感動は質量ともに桁違いだった。腹の底から喜びが湧き上がり、思わず叫ぶ僕。

 そして・・・。先生の『神託』はやはり本当だった。気が付いたら、背筋がゾクゾクとし、全身に鳥肌が立っている。曲は『Yesterday』ではなかったが、ビートルズを聴いて確かに鳥肌が立った。世の中には、これほどまでに崇高なものがあったのか。

 幼いながらも持っていた価値観の基準が大きく音を立てて崩れ、その後の僕の青春はビートルズを中心に形成されていくこととなる。もちろん、逸話も満載。しかし、それは次の機会にしたい。

 そうそう、これだけは触れておこう。『Yesterday』は、アルバム『Please Please Me』を100回ほど聴いた後、鼻の穴から『赤』を借りて聴くことになるのだが、12才の僕には正直だるかった。一生聴いても鳥肌など立つはずもないと思っていた。しかし、あれは中学校3年生の夏。台風のため、雨戸をすべて閉め切った家の中で『赤』を聴いていた。そして始まるフォークギターのイントロとそれに続く「Yesterday~♪」というPaulの甘い声。まさしくその瞬間だった。ヘレンケラーが水に触れたときによみがえった記憶「Water」。その感動と同質のものといったら大げさだろうか。

 それまで、感動のあまり叫んだり鳥肌が立つことはあっても、こんなことはなかった。そう。泣いているのだ。自分でもこの涙の説明がつかない。涙というのは、痛かったり悲しかったりするときに出るものではないのか? しかし、今の僕は『Yesterday』を聴きながら涙している。

 それから20年以上たった今でも、『Yesterday』は僕の大好きな曲の一つ。僕の宝物の一つ。

 ロシア人だと思っていたビートルズの熱狂的なファンになるまでのお話は、これにてひとまずおしまい。

2004年09月21日

ビートルズってロシア人? Episode 7

8fe2dc3d.jpg 僕が中学1年生だった当事、LPの値段は2,500円であった。そのときの僕の毎月のお小遣いは正確には記憶していないが、その後お小遣いは毎月500円、その他にビートルズのLPを2ヶ月に1枚買ってもいい、ということになったことは記憶している。

 さぁ、「イエスタデイ」だ。イエスタデイはビートルズで1番売れた曲だ(前回に続き訂正だが1番売れたのはHey Judeである)。先生が「いい」と言うんだからいい曲に違いない。先生は「鳥肌が立った」と言っていた。当事は、先生の言葉は「神託」並みに重みがあった。先生が嘘を言うはずはない。それに、1番売れたということは1番いい曲だからに違いない。絶対にOb-La-Di,Ob-La-Daなんかではびくともしない激しいビートの曲なんだろう。そう。当事の僕の辞書には「バラード」なんて4文字はなかった。「いい曲=激しいビート」と思い込んでいた。

 とある日曜日、僕は2,500円を持って商店街のレコード屋にYesterdayが収録されているLPを買いに行った。え?2,500円では消費税が払えない?これだから人間の記憶とは恐ろしい。消費税なんてものは当時はなかったのだ。消費税が導入されたのは、その10年後の話である。

 正直、どのLPにYesterdayが収録されているか皆目見当が付かなかったが、何と言ってもビートルズで1番売れた曲だ(違う!1番売れたのはHey Jude!)。店員に聞けばもちろん知っているだろう。

「すみませーん。ビートルズのLPで『イエスタデイ』が入っているのが欲しいんですけど」
「『Yesterday』?あー、だったら多分前期の傑作集かな。一緒においで。
はい、これですよ」
そう言って差し出されたLP・・・。
なんと、あの鼻の穴が持っていながら聞かせてくれなかった『赤』じゃないか!

 どうしよう。
鼻の穴が持っているんだから、わざわざ買わなくても、あいつに聞かせてもらえばいい。テープにダビングすればいいだけのことだ。なんかもったいない、買うの。

 しかし、当事の僕は、よく言えば几帳面、悪く言えば融通の利かない男で、一度決めたスケジュールを曲げることを病的なまでに嫌う子供であった。
その日のスケジュールは「『イエスタデイ』が入っているLPを買うこと」だ。
そのために、わざわざ学生服まで来て商店街に来たんだ。

 そうそう、信じられない話だが、当事の僕の中学では、父兄同伴でない場合、商店街に行くときには学生服の着用を義務付けられていたのだ。

 そして几帳面な僕は、もったいないという気持ちを押し殺して、スケジュールどおりに行動することを選択した。
「わかりました。これ買います」
そしてレジに向かい、2,500円を差し出すと・・・

 「あの、これ2枚組なので2,500円じゃお金足りませんけど」

 な、なんと絶望的なお言葉!その日の僕のスケジュールでは、「イエスタデイ」が入っているLPを買わなければならないのだ!
しかし、「お金が足りないために、お金を取りに一度家に戻って、再びレコード屋に来る」というスケジュールは残念ながら立てていなかった。
しかるに、その気になれなかった。

 ここが、所詮中学1年生の頭脳であるが(いや、単に僕が馬鹿だったのか?)、『赤』が前期の「傑作選」であるなら、前期のLPをくまなく探していけば、「イエスタデイ」が入っているLPがあるはず。しかし、こうした思考は当事の僕にはまだできなかった。「イエスタデイ」は『赤』にしか入っていない曲、と思い込んでしまった。

 どちらに転んでもスケジュールの変更だ。あー!もうどうでもいい!そうだ、一層のことビートルズの最初のLPを買うことにしよう。もう、いいや。それでいいや。

 几帳面な人間とは、ひとたび予期せぬことが起きるとこうももろいのか、しかし。

 そして、① というラベルが貼られている「Please Please Me」を2,500円払って手に取った。もうやけくそである。

 その日の夜に、「音楽を聴いて鳥肌が立つ」という人生初の体験をすることなど、家路に急ぐ僕には知る由もなかった。

2004年09月14日

ビートルズってロシア人? Episode 6

46f3d305.jpg「えっ?別に好きじゃないですよ。この『シー・ラブズ・ユー』は好きだけど、この前ビートルズで1番いいってレコードを友達が僕んちに持ってきたけど、最初の曲聞いてる途中で寝ちゃったし」

 この教師、確かにすぐに僕に手は上げたが、実は入学以来、僕たちは結構気があい、気軽によもやま話ができる間柄であった。

 「別に好きじゃないって、お前『Yesterday』を聞いても何とも思わなかったのか?」

 「お前の友達のレコードの中にも入っていたはずだけどなー(ちなみに「青」にはYesterdayは入っていない。入っているのは「赤」の方である。まったく、鼻の穴の大マヌケ!)」

と、先生は、僕が聞いたアルバムのタイトルも確認せずに断定してしまった。

 「何と言っても、Yesterdayはビートルズで一番売れた曲だからなー(ちなみに一番売れたのはHey Judeである)」

 「先生なんか、初めて『Yesterday』を聞いたときには鳥肌が立ってなー。そうだ、お前、さっそく『Yesterday』を聞いてみろ。お前小遣いはいくらだ。月500円ぐらいはもらってんだろ。だったらシングルが買えるじゃんか」

 「そうだ、『Yesterday』を聞いたらさっそく先生に感想を聞かせてくれ」

と、ここまで一気にまくし立てると、先生はスリッパをパタパタさせながら、「ろっくんいぇーいいぇーいいぇー」と楽しげにハミングしながら教室を後にしてしまった(これホントの話)。
 どうやら 社会科の教師のヒアリング力というのもたいしたことがないらしい。

一方、僕はと言うと、

(1)「いえすたでいを買って聞く」
(2)「すると鳥肌が立つ」
(3)「ゆえに僕はビートルズが好きになる」

お得意の三段論法の世界に入り込んでしまった。

 何はともあれ「いえすたでい」だ。真っ白な灰になるまで燃え尽きたOb-La-Di,Ob-La-Daでも、耳がOctopus's GardenになってしまったShe Loves Youでも、決して鳥肌など立つことはなかった。

それがどうだ!「いえすたでい」を聞けば、この初夏のぽかぽか陽気に鳥肌立てて、友達からは「お前って大人じゃーん」と熱い視線を一身に浴びることができる。この時の僕は既に、冷めた視線で気味悪がられるだけ、というしごく当然の反応さえ想像できないほど冷静な判断力を失っていた。

 二度にも渡る奇行に踊らされてしまった鼻の穴にも、
 「お前、音楽聞いて鳥肌が立つような、そして感涙にむせぶような、そんな経験したことあるか?」

 「お前Yesterdayを聞いてみろよ。あの激しいビートはOb-La-Di,Ob-La-Daの比じゃないぜ。何と言ってもビートルズで1番売れた曲だからなー(くどいようだが1番売れたのはHey Judeである)」

と、往復ビンタを食らわして鼻血ブーしてもまだお釣りが来るような逆襲ができる。

 さあ、鍵は手に入れた。「Yesterday」と言う名の鍵を。
 そしていよいよ次回、その扉を開けるべく僕はお小遣いを持ってレコード店に馳せ参ずることになるのだが、「シナリオライターよ!何故にあなたは僕にそこまで試練をお与えになるのか!」

 そう、レコード店で僕は再び、大きな障壁にはばまれ立ち往生することとなるのである。何故に僕は七転八倒する羽目となるのか。その謎を解く鍵は、次回の話の中に落ちている。

2004年09月07日

ビートルズってロシア人? Episode 5

e7758aa9.jpg 「たら・れば」で歴史を考察するほど愚かなことはない。

 仮に、「もし1956年6月15日、ウールトン教会のパーティーでJohnとPaulの2人が出会わずにいたら、その後の人類の音楽は、いや人類の文化はどのような歴史をたどっていたであろうか?」と頭を悩ましてみたところで、その努力は徒労に終わるだろう。

 なぜなら、あの日あの場所で2人が出会うことは、偶然でもなんでもなく、運命であり、書き直しのきかないシナリオであるからだ。そう、この世にはこうした粋なシナリオを書く演出家のような者が存在しているのではないか。僕は時々そう思う。

 では、僕と僕の友人である例の鼻の穴の人生を演出しているのは? これはどうやら、とんだ三文作家であると思われる。

 それこそ、起承転結の「結」から話を始めるような僕たちのシナリオライターの演出のおかげで、僕はビートルズが「最後」にレコーディングした『Abbey Road』を「最初」に聞かされ(発売日としては『Let It Be』が最後だが、最後にレコーディングされたアルバムは『Abbey Road』である)、その次には、「初期」の傑作選の「赤」ではなく、「後期」の傑作選の「青」を聞かされ、まさしくシナリオライターの思惑通り、完膚なきまでにビートルズに対する興味を失う結果とあいなった。

 「青」のすとろべりーなんたらでクロロホルムよろしく深い眠りに陥ってしまった僕は、今だに彼が本当に「そのまま」帰宅したのか、実を言うと胸騒ぎを禁じ得ない。彼もそろそろ「あっち」の方の本能も芽生え始めている年頃である。目の前でいたいけな美少年が甘い吐息(じゃなくて寝息)を立てているときに、例のごとく鼻の穴をおっぴろげて、僕の愛らしい寝顔を鼻息荒く覗き込んでいたのではないかと考えると・・・。よそう・・・。虚しい・・・。

 てな訳で、ビートルズの存在自体は忘却の彼方の僕ではあったが、その後もしばらくオンエアーされ続けていたフィルムコンサートのCMのおかげでShe Loves You を口ずさむことだけは日課となっていた。

 CMが継続していたということは、つまりは、チケットが売れ残っていたことを意味するのだが、まさかその後自分がそのフィルムコンサートを観にいくことになろうとは。ホントに人生ってドラマチック。

 しかし、それにしても中学1年生の英語のヒアリング力などお粗末なものである。

 ある日教室で、「ろっくんいぇーいいぇーいいぇー(実際は「She loves you yea! yea! yea!」)と日課をこなしていたら、「お?お前ビートルズが好きか?」と背後から声がした。社会科が専門の僕の担任、そう、「大村!『かんとくふいきとどき』だ!」と意味のわからないことばとともにすぐに僕に手を上げる例の教師であった。

 JohnとPaulはパーティーが開かれる教会で出会った。そして、僕と教師は授業が開かれる教室で出会った。ちょっと無理があるが、この2つの出会いを偶然で片付けるには、少しばかり惜しい気がする。

 なぜなら、これこそ僕にとってはいわゆる「三度目の正直」、ビートルマニアへの鍵を手に入れた極めて歴史的な瞬間であったからだ。

 順序は狂ったが、「結転承起」の「起」がやって来た。