ビートルズってロシア人? Episode 6
「えっ?別に好きじゃないですよ。この『シー・ラブズ・ユー』は好きだけど、この前ビートルズで1番いいってレコードを友達が僕んちに持ってきたけど、最初の曲聞いてる途中で寝ちゃったし」
この教師、確かにすぐに僕に手は上げたが、実は入学以来、僕たちは結構気があい、気軽によもやま話ができる間柄であった。
「別に好きじゃないって、お前『Yesterday』を聞いても何とも思わなかったのか?」
「お前の友達のレコードの中にも入っていたはずだけどなー(ちなみに「青」にはYesterdayは入っていない。入っているのは「赤」の方である。まったく、鼻の穴の大マヌケ!)」
と、先生は、僕が聞いたアルバムのタイトルも確認せずに断定してしまった。
「何と言っても、Yesterdayはビートルズで一番売れた曲だからなー(ちなみに一番売れたのはHey Judeである)」
「先生なんか、初めて『Yesterday』を聞いたときには鳥肌が立ってなー。そうだ、お前、さっそく『Yesterday』を聞いてみろ。お前小遣いはいくらだ。月500円ぐらいはもらってんだろ。だったらシングルが買えるじゃんか」
「そうだ、『Yesterday』を聞いたらさっそく先生に感想を聞かせてくれ」
と、ここまで一気にまくし立てると、先生はスリッパをパタパタさせながら、「ろっくんいぇーいいぇーいいぇー」と楽しげにハミングしながら教室を後にしてしまった(これホントの話)。
どうやら 社会科の教師のヒアリング力というのもたいしたことがないらしい。
一方、僕はと言うと、
(1)「いえすたでいを買って聞く」
(2)「すると鳥肌が立つ」
(3)「ゆえに僕はビートルズが好きになる」
お得意の三段論法の世界に入り込んでしまった。
何はともあれ「いえすたでい」だ。真っ白な灰になるまで燃え尽きたOb-La-Di,Ob-La-Daでも、耳がOctopus's GardenになってしまったShe Loves Youでも、決して鳥肌など立つことはなかった。
それがどうだ!「いえすたでい」を聞けば、この初夏のぽかぽか陽気に鳥肌立てて、友達からは「お前って大人じゃーん」と熱い視線を一身に浴びることができる。この時の僕は既に、冷めた視線で気味悪がられるだけ、というしごく当然の反応さえ想像できないほど冷静な判断力を失っていた。
二度にも渡る奇行に踊らされてしまった鼻の穴にも、
「お前、音楽聞いて鳥肌が立つような、そして感涙にむせぶような、そんな経験したことあるか?」
「お前Yesterdayを聞いてみろよ。あの激しいビートはOb-La-Di,Ob-La-Daの比じゃないぜ。何と言ってもビートルズで1番売れた曲だからなー(くどいようだが1番売れたのはHey Judeである)」
と、往復ビンタを食らわして鼻血ブーしてもまだお釣りが来るような逆襲ができる。
さあ、鍵は手に入れた。「Yesterday」と言う名の鍵を。
そしていよいよ次回、その扉を開けるべく僕はお小遣いを持ってレコード店に馳せ参ずることになるのだが、「シナリオライターよ!何故にあなたは僕にそこまで試練をお与えになるのか!」
そう、レコード店で僕は再び、大きな障壁にはばまれ立ち往生することとなるのである。何故に僕は七転八倒する羽目となるのか。その謎を解く鍵は、次回の話の中に落ちている。
