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「篤」が「あつし」に変わるまで(10)

< 第1話 からお読みください >

主要登場人物・団体

●僕・・・この物語の主人公。わたくし、大村あつしのこと。
●福島一郎・・・品川出版(株)の社長。実在する人物だが仮名。
●品川出版(株)・・・在京の出版社。実在する会社だが仮名。

Episode 10

- 未完成の原稿 -

このとき、僕には3つの選択肢があった。

理由を説明して、中途時半端な原稿をそのまま渡す。
30ページという枠にとらわれずに、「売上入力」を完成させてから渡す。
30ページという枠に収まりそうな、別のパートを一から書き直す。

そして、せっかちな僕が選んだのは・・・。
もちろん最初の選択肢である。

もう、1秒でも早く原稿を見てもらいたい。
そんな気持ちを押さえ切れずに、未完成の原稿をプリントアウトして、福島社長の名刺に記された住所に郵送してしまったのだ。

ただ、同封したあいさつ文の中で、送った原稿は未完成であることを、必要以上に強調してみせた。
万が一、これが完成と勘違いされたら、せっかく掴んだチャンスも逃げてしまう。
そう思ったからだ。

実は、このとき僕は2回目の「たら」「れば」に直面していた。
僕の前には、先ほど言ったように3つの選択肢、すなわち「たら」「れば」があった。
どの道を進んでも、さして違いはないような気がする。

また、実際僕も、そのときの選択にはさほど悩みはしなかった。
3本のどの道を進んでも、またそれらの道は1本に合流すると軽く考えていた。
だが、もしそのとき別の「たら」「れば」を選択していたら、今この文章を書いている僕は間違いなく存在していない。

そして、未完成のまま送ってしまったその原稿が、その後の僕と福島社長の歯車を徐々に狂わせ始めることになる。

いや、正確に言えば、始めからかみ合っていなかったもっと大きな歯車が運命的にかみ合い始めることになるのだが、それはまたのお話し。

⇒ 第11話へ



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