« 2007年03月 | メイン | 2007年05月 »

2007年04月29日

「篤」が「あつし」に変わるまで(20)

< 第1話 からお読みください >

主要登場人物・団体

●僕・・・この物語の主人公。わたくし、大村あつしのこと。
●福島一郎・・・品川出版(株)の社長。実在する人物だが仮名。
●品川出版(株)・・・在京の出版社。実在する会社だが仮名。
●宮城社長・・・私が経営していた会社の主要取引先の社長。実在する人物だが仮名。
●秋田・・・ジャーナリスト。実在する人物だが仮名。

Episode 20

- ジャーナリスト、秋田さん -

本になるはずの原稿が、ただの紙くずになってしまった。
僕がその後、しばらく放心の日々を過ごしたのは言うまでもない。
信じていただけに、その分落胆もまた大きなものだった。

しかし、いつまでもくよくよしていても仕方がない。
早く気持ちの整理をつけなければ。
早くこの無念をふっ切らなければ。

そして僕は、事の顛末を、僕が福島社長を知るきっかけとなった宮城社長にだけは報告しておこう。
そう考えた。

その報告で「けじめ」をつけて・・・

悲しいが、また開発の日々に戻ることにしよう。

「宮城社長、結局駄目でした、例の本の話」

「え?駄目だったの」

「はい。300ページ書いた原稿もパーです。でも、もう気持ちの整理もつきましたし・・・」

僕は何を言ってるんだ。

「気持ちの整理がついた」じゃなくて、「気持ちを整理する」ために、今僕はここにいるんだろう?

「うーん。パソコンのことは私はよくわからないけど、世の中『Windows95』『Windows95』って大騒ぎじゃない。何とかならないものかな・・・」

「・・・」

「あ、そうだ。私の知り合いに一人、ジャーナリストがいるよ。彼に相談してみよう」

⇒ 第21話へ

2007年04月26日

「篤」が「あつし」に変わるまで(19)

< 第1話 からお読みください >

主要登場人物・団体

●僕・・・この物語の主人公。わたくし、大村あつしのこと。
●福島一郎・・・品川出版(株)の社長。実在する人物だが仮名。
●品川出版(株)・・・在京の出版社。実在する会社だが仮名。

Episode 19

- 福島社長との最後の会話 -

「この原稿を読んでください」

そんな営業で本が出版できるわけがない。

「福島社長。お手数ですが、原稿の内容をコンパクトにまとめた企画書と私のプロフィールをすぐに作ってお送りしますので、もう一度アタックしてみていただけますか」

「いや、それはできません。頂いた30万円分の営業はもうしましたので、もう私の仕事はこれでおしまいです。それに、先ほども申し上げましたが、3社回って駄目なものは駄目。潔くあきらめてください」

30万円で3社。
成功しようがしなかろうが1社10万円。
ぼろい商売だ・・・。
これじゃ・・・、詐欺だ・・・。

脳天をハンマーで殴られたような衝撃、とはまさしくこのようなショック状態を指して言うものだろう。
僕は、このとき自分が八方ふさがりの状況に追い込まれたことを痛感した。

終わった。
すべてが終わった。
この数ヶ月の努力も、自分の本が出版されるというささやかな夢も、すべてが砕け散った。

僕は、放心状態のまま受話器を置いた。

この日の電話が、福島社長との最後の会話となった。

⇒ 第20話へ

2007年04月23日

『作家2.0』宣言!

ボクは、昨年の9月13日に、 『作家3.0』宣言! をしました。
⇒ こちらのブログ

お読みいただくとわかりますが、小説の売込みがまったくうまくいかずに、失意のどん底で書いたブログです。

その前の8月3日には、 こちら のブログでも

今のボクは、さながら灼熱のアスファルトに投げ出されたミミズですね。
心の栄養がどんどん蒸発して、干からびていくのがわかります。

と、苦しい心境を吐露しています。

しかし、ボクは諦めませんでした。

そして、なんとか、小説家デビューに漕ぎ着けました。

GWが迫る中、発売日が特定できない焦燥感はありますが、可能性としては、5月2日に『エブリ リトル シング ~人生を変える6つの物語~』が書店に並ぶと思われます。

『作家3.0』宣言!でも書いたとおり、 売れる売れないは天の采配だと思っています。

ただ、次の作品をどこかの出版社に書かせていただけるだけの結果はどうしても残したいと切望しています。

さて、この「作家3.0」ですが、ボクがそう宣言した頃、「作家x.x」という表現を用いていたのは、ボクが知る限りボクだけだと思います。

そして、このたび、いよいよ初めての小説の発売が迫る中、「作家2.0」と改めることにしました。

友人と話していて、「ビジネス書(1.0)と小説(2.0)をともに手掛けるから作家3.0はわからなくもないけど、小説がビジネス書よりも優れているわけではない」と指摘を受けました。

もちろん、それはボクも重々承知で、作家3.0のブログでもそのように書いているのですが、今後、毎回自己紹介するたびに但し書きが必要な肩書きでは困りますので、

「ビジネス書(IT書)も小説も書く1+1の作家2.0」

のほうがわかりやすいと思ったためです。

今後は、ホームページのプロフィールも書き換えますし、今の名刺の肩書き「ITライター」も「作家2.0」にします。

名刺を受け取った人には、「作家2.0」ってなんですか? と聞かれることでしょう。

しかし、そう聞かれなくなったときが、ボクの目標が実現するときなのだと思います。

                            作家2.0 大村あつし

2007年04月21日

「篤」が「あつし」に変わるまで(18)

< 第1話 からお読みください >

主要登場人物・団体

●僕・・・この物語の主人公。わたくし、大村あつしのこと。
●福島一郎・・・品川出版(株)の社長。実在する人物だが仮名。
●品川出版(株)・・・在京の出版社。実在する会社だが仮名。

Episode 18

- 福島社長との最後の会話 -

前回、私は、「神にもすがる気持ちで福島社長からの報告を待つ日々を送ることになる」と書いた。

「日々」
複数形である。

したがって、この表現自体は誤りではないが、社会通念上「日々」といったら、1ヶ月とか1年間ぐらいのスパンを指すものと思われる。
しかし、福島社長からは3日後に連絡が来た。

結果は「全滅」。
どこの出版社も僕の原稿を本にはしてくれない、ということだ。

念のために、どこの出版社に僕の原稿を持ち込んでくれたのか聞いてみたが、挙がった名前は3社。

1社は、誰でも知っている大手出版社だが、少年漫画の週刊誌を手がけている、どう考えてもコンピュータの書籍を出版するとは思えない出版社。

あとの2社にいたっては、聞いたこともない出版社であった。

「ひょっとして、まさかこれで終わりじゃありませんよね。まだ、他の出版社にも営業していただけるんですよね」

「いえ、これでおしまいです。私の経験では、3社回って駄目な場合、どうやっても本にはなりませんよ」

そんな馬鹿な・・・。
僕の本を出版してくれるんじゃなかったのか・・・。
3社回ったって言うが、どのような営業をしたのか・・・。

待てよ。
考えてみると、福島社長には企画書は渡していないはずだ。

ひょっとすると、膨大な僕の原稿を持って、

「この原稿を読んでください」

そんな営業をしたのではないか・・・

いくら何でもそれはない。
素人考えだが、まずは企画書なり、その原稿を書いた人物のプロフィールを紹介するのが「売り込み」というものではないのか・・・。

⇒ 第19話へ

2007年04月20日

「篤」が「あつし」に変わるまで(17)

< 第1話 からお読みください >

主要登場人物・団体

●僕・・・この物語の主人公。わたくし、大村あつしのこと。
●福島一郎・・・品川出版(株)の社長。実在する人物だが仮名。
●品川出版(株)・・・在京の出版社。実在する会社だが仮名。

Episode 17

- 品川出版の謎 -

ところが、その30ページが未完成パートであることを知った福島社長は、興味のない仕事を先延ばしにする、格好の理由を手に入れたというわけだ。
そして、なるだけ長期間、僕からの連絡という面倒な束縛から逃れるために、

「一層のこと、本全体を完成させてよ」
「時間をかけてもいいから、じっくりといいものを書いてよ」
「いや、もうテストはパスしたと思ってください。本が完成すれば、それで合格!」

なんて、調子のいいことを言ったのだ。

いや、そう言えば、僕が執筆をあきらめるかもしれない。
そんな期待も秘められていたに違いない。

しかし僕はあきらめなかった。
そのことばを間に受けて、執筆を続けた僕のことを、福島社長は、さぞ「何とも無知な男」「何とも勘の鈍い男」と恨めしがったに違いない。

ただ、いずれにせよ原稿は完成してしまったわけだ。
こうなると、福島社長は、嫌でも「動かざるを得ない」。
そう、その日を境に、30万円という依頼費を前払いで受け取った福島社長の出版社めぐりが始まることとなったわけだ。

そこまでの事情をすべて飲み込んだ僕は、「武士に二言はない」ではないが「本を出版する」と言った福島社長のことばと、30万円という大金を前渡した事実だけを胸に、一転、神にもすがる気持ちで彼からの報告を待つ日々を送ることになる。

さて、物語りはいよいよ第二幕にさしかかる。

⇒ 第18話へ

2007年04月16日

「篤」が「あつし」に変わるまで(16)

< 第1話 からお読みください >

主要登場人物・団体

●僕・・・この物語の主人公。わたくし、大村あつしのこと。
●福島一郎・・・品川出版(株)の社長。実在する人物だが仮名。
●品川出版(株)・・・在京の出版社。実在する会社だが仮名。

Episode 16

- 品川出版の謎 -

「品川出版」

そう聞いて、僕はその会社が出版社であることを信じて疑わなかった。

いや、確かに「品川出版」は「出版社」であった。
しかし、本など一度も出版したことのない出版社であった。

後から聞いた話だが、「出版社」の中でも、実際に本を出版できる出版社はほんの一握り。
それ以外の「出版社」は、編集の下請けをしたり、また、面白い企画を「本を出版できる出版社」に売り込むことを生業としているらしい。
このような会社や個人は、一部の人達からは「ブローカー」と揶揄されることもある。
これも後から知った話だ。

確かに、銀行ではあるまいし、社名に「○○出版」と付けてはいけない法律などない。
それに、植物の「あすなろ」ではないが、どの「出版社」も、いずれは自分たちも本を出版したいとの希望から「○○出版」と名乗るわけだから、このこと自体を責めることはできないわけだ。

しかし、品川出版は社長とアルバイト一人という会社。
責めるべきは、いくら出版業界とは無縁の人生を送ってきたとはいえ、この規模の会社がそうやすやすと本を出版できるはずがないことに気付かなかった僕の無知であろう。

では、福島社長は、初めから自社で僕の本を出版する気はなかったのか。
もしなかったとすれば、これは「お調子者」では済まされまい。
やはり「詐欺」と言われても仕方ないと思うが、どうやら、初めて僕の構想を聞かされたときには、

「これでうちも『あすなろ』になれるかも知れない・・・」

そう、自社で出版する腹づもりだったらしい。

しかし、すぐに気が変わった。
僕の原稿には興味がなくなった。

そう考えれば、初めて出会ったその1週間後に僕が30ページを書き上げたことを知らされたときに、あれほど迷惑がったことにも納得がいく。

しかし、たった1週間で気が変わってしまうとは・・・。

何ともはや、福島社長の「お調子者」の本領発揮といったところか。

⇒ 第17話へ

2007年04月15日

ジャッキー・チェン応援隊のみなさま、ありがとうございます!

⇒ 「ジャッキー・チェンの映画にスタント」ニュースはナンセンス

このブログにたくさんのジャッキー応援コメント、本当にありがとうございます!

海外のニュースを読んでいると、今なお、

「ジャッキー・チェンは疑いを晴らすのに躍起」

みたいな悪意に満ちた報道のなされ方をしています。

ジャッキー・チェンを心から愛しているみなさま。

どしどし

⇒ 「ジャッキー・チェンの映画にスタント」ニュースはナンセンス

をお友達に教えて差し上げてください。

ちなみに、僕自身は、ジャッキーを利用して有名になろうなんて、ミジンコの繊毛ほども思っていません。

ただただ、愛するジャッキーの力になりたいのです!

まだの方は、ぜひ一度、プロジェクトAをご覧になってください。

こんな映画史に残るアクションができる人がジャッキー以外にいないことが痛感していただけると思います。

頑張れ! ジャッキー・チェン!

PS
先日のブログでは、「ジャッキーのハリウッド作品には興味がない」みたいなことを書きましたが、『ランボー4』には、やっぱり出て欲しかった・・・。

たとえ主役がシルベスター・スタローンであろうと、また、彼がジャッキーのハリウッドでの大成功の後押しをしてくれた恩人であろうと(もう一人の恩人はクエンティ・タランティーノ。彼は、「アメリカにおけるジャッキー映画の評価が低すぎる」と、抗議の受賞辞退をほのめかしたほどのジャッキー信者です)、「絶対に主役でなければ」というジャッキーの気持ちもわかりますし、噂によると、ジャッキーの役柄は、決して正義の味方ではないが、なんだかんだとランボーと行動を共にする中途半端な役だったらしく、それがジャッキーが気に入らなかった、など、憶測が流れていますが、やっぱり、『ランボー4』のジャッキー・チェンが見たかったです・・・

それだけが心残り・・・

2007年04月12日

「ジャッキー・チェンの映画にスタント」ニュースはナンセンス

今日は、このブログがマスコミの目に留まることを願いつつ書いている。

今、「ジャッキー・チェンが映画でスタントマンを使っていた」というニュースが世界中を駆け巡っている。

まあ、ジャッキー・チェンファン歴25年のボクにとっては、なんともナンセンスな話だ。

たとえば、リンクを貼った上述のニュースでは、

ハリウッド映画出演の際は保険上の理由からスタントマンを使うことがある、などと「釈明」している。

と、なんとも悪意に満ちた表現が使われているが、こんなものは「釈明」でもなんでもない。

ジャッキーは、「バトル・クリーク・ブロー」という作品で20代半ばの時にハリウッド進出を目指したが失敗、しかし、その後も東洋を中心にアメリカを除く世界各国でのジャッキーの人気はうなぎ上り。

「ヤングマスター」で、一度、カンフー映画に終止符を打ったジャッキーが、「ドラゴン・ロード」の後に放ったアクション映画の最高傑作、「プロジェクトA」や「ポリスストーリ」で、あり得ないスタントを披露して世界中の度肝を抜いたことは、ボクの世代の人ならご存じだと思う。

プロジェクトAでは、17mとも25mとも言われている時計台からの落下。
しかも、ジャッキーは、死なないのが不思議なくらいのこの危険なアクションに3回も挑んでいることが、映画の本編とNG集からわかる。

ちなみに、補足すると、劇中では、ジャッキーは、力尽きて時計台から地面に落下し、全身を強く打ち付けるわけだが、なにせ、命がけのスタント。
「さあ、落ちるぞ」と言わんばかりに、一度、体を持ち上げて気合を入れてから落下してしまったために、テイクワンはNG(これは、エンディングのNG集で確認できる)。

もう一度は、ジャッキー的に落下のしかたが美しくない、という理由でNG(これは、映画本編で確認できる)

そして、常人には真似のできない、世界中のスタントマンがいくら金を積まれても首を縦に振らないであろうこの危険なスタントに負けず劣らずの名シーンといえば、ポリスストーリーのラストシーン、デパートでのポールへの飛び移り。

確かに、こうしたアクションがスタントマンの吹き替え、ということだったら、ジャッキー伝説は地に落ちるだろう。

しかし、上述のとおり、この2作品でアメリカ以外の世界各国で人気を不動のものにしたジャッキーは、再び、ハリウッドへ進出を図る。

それが「プロテクター」という映画だが、この映画のパンフレットや当時の雑誌で、ジャッキーははっきりと言っている。

「アメリカでは、スタントマン組合の力が強く、危険なアクションをスタントマンを使わずに俳優が演じることは、彼らの仕事を奪う、と解釈されて許されない。だから、ヘリコプターにロープでぶら下がるだけのなんでもないアクションすら、ボクは演じさせてもらえなかった。

劇中で、ヘリコプターにしがみつく直前に、刑事役のボクが突然サングラスをかける、という不自然極まりない無意味な行動を取るのは、ヘリコプターにぶら下がっているのがスタントマンであることを隠すためだ。

そこで、ボクは、あの程度のアクションなど朝飯前であることをファンに知ってもらうために、リハーサルの時に実際にボクがぶら下がった映像をNG集に入れてもらった」

そう。
ハリウッド映画の危険なアクションはジャッキー本人ではない。
こんなこと、本人が20年も前から自身の口で語っており、ファンなら誰でも知っていることだ。

だから、生粋のジャッキーファンは、ジャッキーのハリウッド作品の評価が低い(というか見向きもしない)のだ。

ちなみに、カーチェイスやバイクのシーンが吹き替えであることも、ジャッキーは、上述のバトル・クリーク・ブローの頃に出演した「キャノンボール」ですでに告白している。

「ファースト・ミッション」という、ジャッキー映画の中でもっとも泣ける作品(ジャッキーファンの中では、「香港版レインマン」とまで呼ばれて高く評価されている)のプロモーションで来日してテレビ出演した時も、カーチェイスの場面で、司会に「この危険なアクションもジャッキーさんなんですね」と振られて、

「It's not me!(あれは、ボクじゃない)」

と答えて、一瞬、他のテレビ出演者の失笑を買うような場面もあったが、逆に言えば、そこまで徹底して、ジャッキーは自分で演じたスタントと吹き替えを区別し、ファンに明言している。

さらに言えば、撮影スケジュールが押したりなどの理由で、実は、結構スタントを使っていることなど、これまでも平然と話してきたし、これもファンには周知の事実。

それを、今頃になって、どこの誰かは知らないが「バイクのシーンでボクはジャッキーのスタントを演じた」とスタントマンがブログに書いたくらいで、ジャッキー伝説に、1ミクロンの傷も付くことはない。

ジャッキーチェンは、20世紀最大、最高のアクションスターである。

ちなみに、最後のセリフは、ボクの心情でもあるが、他ならぬ、シルベスター・スタローンのセリフである。

2007年04月10日

「篤」が「あつし」に変わるまで(15)

< 第1話 からお読みください >

主要登場人物・団体

●僕・・・この物語の主人公。わたくし、大村あつしのこと。
●福島一郎・・・品川出版(株)の社長。実在する人物だが仮名。
●品川出版(株)・・・在京の出版社。実在する会社だが仮名。

Episode 15

- 意味不明な30万円の支払請求 -

「え!30万円!?」

「はい、そうです。ただ、これは前受け金ではありませんので、成功しても成果報酬を別途いただく、ということはありませんのでご安心ください」

「ちょ、ちょっと待ってください。おっしゃる意味がさっぱりわかりません。これって自費出版なんですか」

「いえいえ、まさか。たった30万円で自費出版はできませんよ、ははは。自費で出すと、最低でもその10倍、300万円はかかりますよ。もちろん、しかるべきところから、しかるべき形で出版されると思います。当然、大村さんの元には印税も入りますよ。無事出版されればですが」

しかるべきところ?
何を言ってるんだ、この人?
品川出版が出版してくるんだろう?

無事出版されれば?
原稿が完成すれば出版してくれるんじゃなかったのか?

実は、僕はこの後のやり取りを正確には記憶していない。
80%の落胆と20%の混乱の中で、かなり取り乱していたことは想像に難くないが・・・。

そして、訳もわからぬまま30万円を支払うことには同意し、翌日には指定の口座にとりあえず振り込みを済ませたのであった。

さて、ここまで連載をお読みの方は、僕が詐欺にでもあったかとお思いだろう。
もちろん、詐欺まがいであることは間違いないが、厳密には詐欺ではない。
僕の無知と福島社長の「お調子者」な性格が巻き起こした「悲劇」と言った方が正確だろう。

そう、やはりそう簡単に本など出版できるはずは、最初からなかったのだ。

一体、福島社長なる人物は何者なのか。
実は、これまでの僕達のやり取りの中にも、そのヒントは随所に隠されている。
ただ、無知な僕がそれに気付かなかっただけのこと。

では、その謎解きはまたのお話。

⇒ 第16話へ

2007年04月08日

「篤」が「あつし」に変わるまで(14)

< 第1話 からお読みください >

主要登場人物・団体

●僕・・・この物語の主人公。わたくし、大村あつしのこと。
●福島一郎・・・品川出版(株)の社長。実在する人物だが仮名。
●品川出版(株)・・・在京の出版社。実在する会社だが仮名。

Episode 14

- ついに完成! -

友達には、

「来年早々には俺の本が出るから買ってよ。サインするからさぁ~」

なんて戯言を言いふらす始末。

「お前、騙されてるんじゃないの?」
「本が出るって・・・、自費出版でしょ?」

友達は、誰一人としてまともに取り合おうとしなかったが、とにもかくにも原稿は完成したのだ。

今に見ていろ。
後は、この原稿を福島社長が本にしてくれるのさ。

時は、世間がWindows95ブーム一色に染まっていた95年11月の終わり。
原稿が完成したことを嬉々として僕から伝えられた福島社長は、受話器の向こうでこう答えた。

「あ、そう。それなら・・・、年内に少し動いてみようかな。」

ん?
微妙にではあるが、どこか迷惑そうな受け答えだな・・・

一瞬そう感じたが、「今、きっとお忙しいのだろう」。
頭をもたげかけた釈然としない気持ちも、そう解釈することですぐに吹き飛んでしまった。

「では、その原稿を送ってください。それから、これから少し動きますので、まず30万円を弊社の指定口座に振りこんで頂けますか」

「え! 30万円!?」

⇒ 第15話へ

2007年04月02日

「篤」が「あつし」に変わるまで(13)

< 第1話 からお読みください >

主要登場人物・団体

●僕・・・この物語の主人公。わたくし、大村あつしのこと。
●福島一郎・・・品川出版(株)の社長。実在する人物だが仮名。
●品川出版(株)・・・在京の出版社。実在する会社だが仮名。

Episode 13

- ついに完成! -

僕は、どうしても素直には喜べなかった。

「いや、もうテストはパスしたと思ってください。本が完成すれば、それで合格!」

確かに、福島社長はそう言った。

テストに合格したのだ。
そう遠くない将来、僕の本が全国の書店に並ぶのだ。
本来なら、こんなに嬉しい話はない。

しかし、素人考えだが、原稿に一瞥もくれずに、しかも何の実績もないどこの馬の骨ともわからない「大村篤」という人間に、そう簡単に本を書かせていいものなのか。
もし自分が出版社の人間なら、そんなリスキーなことは絶対にしないであろう。

おかしな話だが、この頃の僕は、自分のことよりも福島社長の身を案じ始めていた。

しかし、何とも釈然としない気持ちの中でも、とりあえず執筆を進めるうちに、僕の中からそうした不安や懸念、また他人の身を案ずる「余裕」はしだいになくなっていく。

気が付いたら、来る日も来る日も12時間もの時間を執筆に費やしていた。

そして、ここが僕が楽天家たるゆえんだが、自分の原稿に酔いしれ、福島社長の言うとおり、当然その原稿が書籍として世に出ることを信じて疑わなくなっていった。

いや、ベストセラーになるとすら思っていた。

舞い込んでくるソフトの開発の依頼もすべて断り、とにかく執筆三昧。

今でもそのときの自分の集中力に驚かされるが、ものの2ヶ月で原稿を完成させてしまったのだ。

⇒ 第14話へ



カテゴリー