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「篤」が「あつし」に変わるまで(16)

< 第1話 からお読みください >

主要登場人物・団体

●僕・・・この物語の主人公。わたくし、大村あつしのこと。
●福島一郎・・・品川出版(株)の社長。実在する人物だが仮名。
●品川出版(株)・・・在京の出版社。実在する会社だが仮名。

Episode 16

- 品川出版の謎 -

「品川出版」

そう聞いて、僕はその会社が出版社であることを信じて疑わなかった。

いや、確かに「品川出版」は「出版社」であった。
しかし、本など一度も出版したことのない出版社であった。

後から聞いた話だが、「出版社」の中でも、実際に本を出版できる出版社はほんの一握り。
それ以外の「出版社」は、編集の下請けをしたり、また、面白い企画を「本を出版できる出版社」に売り込むことを生業としているらしい。
このような会社や個人は、一部の人達からは「ブローカー」と揶揄されることもある。
これも後から知った話だ。

確かに、銀行ではあるまいし、社名に「○○出版」と付けてはいけない法律などない。
それに、植物の「あすなろ」ではないが、どの「出版社」も、いずれは自分たちも本を出版したいとの希望から「○○出版」と名乗るわけだから、このこと自体を責めることはできないわけだ。

しかし、品川出版は社長とアルバイト一人という会社。
責めるべきは、いくら出版業界とは無縁の人生を送ってきたとはいえ、この規模の会社がそうやすやすと本を出版できるはずがないことに気付かなかった僕の無知であろう。

では、福島社長は、初めから自社で僕の本を出版する気はなかったのか。
もしなかったとすれば、これは「お調子者」では済まされまい。
やはり「詐欺」と言われても仕方ないと思うが、どうやら、初めて僕の構想を聞かされたときには、

「これでうちも『あすなろ』になれるかも知れない・・・」

そう、自社で出版する腹づもりだったらしい。

しかし、すぐに気が変わった。
僕の原稿には興味がなくなった。

そう考えれば、初めて出会ったその1週間後に僕が30ページを書き上げたことを知らされたときに、あれほど迷惑がったことにも納得がいく。

しかし、たった1週間で気が変わってしまうとは・・・。

何ともはや、福島社長の「お調子者」の本領発揮といったところか。

⇒ 第17話へ



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