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2004年09月28日

ビートルズってロシア人? Episode 8

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Episode1からお読みください。

『Please Please Me』は、買いたくて買ったレコードではない。帰宅した僕は、服を着替えて一度外に遊びに行く。そして夕食後、自分のその後の運命をも変える瞬間を迎えるのだった。

 当時、決して裕福とはいえなかった僕の家にはステレオなどなかった。うまく説明できないが、ターンテーブルの隣に小さなスピーカーが付いているレコード再生機に『Please Please Me』を乗せて、針を落とす。

 「One Two Three Four!」。Paulのシャウトで始まる『I Saw Her Standing There』。何でもないようなこの曲の入り方一つで、まだ子供だった僕はしびれてしまった。最後の『Twist And Shout』まで、とにかくすべての曲が格好いい。メロディーが美しい。ハーモニーが美しい。エレキギターが激しい。

 こんな感動、それまで味わったことがなかった。たった12年の人生と言われればそれまでだが、その短い間にも、もちろん嬉しいこと、楽しいことはたくさんあった。しかし、この感動は質量ともに桁違いだった。腹の底から喜びが湧き上がり、思わず叫ぶ僕。

 そして・・・。先生の『神託』はやはり本当だった。気が付いたら、背筋がゾクゾクとし、全身に鳥肌が立っている。曲は『Yesterday』ではなかったが、ビートルズを聴いて確かに鳥肌が立った。世の中には、これほどまでに崇高なものがあったのか。

 幼いながらも持っていた価値観の基準が大きく音を立てて崩れ、その後の僕の青春はビートルズを中心に形成されていくこととなる。もちろん、逸話も満載。しかし、それは次の機会にしたい。

 そうそう、これだけは触れておこう。『Yesterday』は、アルバム『Please Please Me』を100回ほど聴いた後、鼻の穴から『赤』を借りて聴くことになるのだが、12才の僕には正直だるかった。一生聴いても鳥肌など立つはずもないと思っていた。しかし、あれは中学校3年生の夏。台風のため、雨戸をすべて閉め切った家の中で『赤』を聴いていた。そして始まるフォークギターのイントロとそれに続く「Yesterday~♪」というPaulの甘い声。まさしくその瞬間だった。ヘレンケラーが水に触れたときによみがえった記憶「Water」。その感動と同質のものといったら大げさだろうか。

 それまで、感動のあまり叫んだり鳥肌が立つことはあっても、こんなことはなかった。そう。泣いているのだ。自分でもこの涙の説明がつかない。涙というのは、痛かったり悲しかったりするときに出るものではないのか? しかし、今の僕は『Yesterday』を聴きながら涙している。

 それから20年以上たった今でも、『Yesterday』は僕の大好きな曲の一つ。僕の宝物の一つ。

 ロシア人だと思っていたビートルズの熱狂的なファンになるまでのお話は、これにてひとまずおしまい。

2004年09月21日

ビートルズってロシア人? Episode 7

8fe2dc3d.jpg 僕が中学1年生だった当事、LPの値段は2,500円であった。そのときの僕の毎月のお小遣いは正確には記憶していないが、その後お小遣いは毎月500円、その他にビートルズのLPを2ヶ月に1枚買ってもいい、ということになったことは記憶している。

 さぁ、「イエスタデイ」だ。イエスタデイはビートルズで1番売れた曲だ(前回に続き訂正だが1番売れたのはHey Judeである)。先生が「いい」と言うんだからいい曲に違いない。先生は「鳥肌が立った」と言っていた。当事は、先生の言葉は「神託」並みに重みがあった。先生が嘘を言うはずはない。それに、1番売れたということは1番いい曲だからに違いない。絶対にOb-La-Di,Ob-La-Daなんかではびくともしない激しいビートの曲なんだろう。そう。当事の僕の辞書には「バラード」なんて4文字はなかった。「いい曲=激しいビート」と思い込んでいた。

 とある日曜日、僕は2,500円を持って商店街のレコード屋にYesterdayが収録されているLPを買いに行った。え?2,500円では消費税が払えない?これだから人間の記憶とは恐ろしい。消費税なんてものは当時はなかったのだ。消費税が導入されたのは、その10年後の話である。

 正直、どのLPにYesterdayが収録されているか皆目見当が付かなかったが、何と言ってもビートルズで1番売れた曲だ(違う!1番売れたのはHey Jude!)。店員に聞けばもちろん知っているだろう。

「すみませーん。ビートルズのLPで『イエスタデイ』が入っているのが欲しいんですけど」
「『Yesterday』?あー、だったら多分前期の傑作集かな。一緒においで。
はい、これですよ」
そう言って差し出されたLP・・・。
なんと、あの鼻の穴が持っていながら聞かせてくれなかった『赤』じゃないか!

 どうしよう。
鼻の穴が持っているんだから、わざわざ買わなくても、あいつに聞かせてもらえばいい。テープにダビングすればいいだけのことだ。なんかもったいない、買うの。

 しかし、当事の僕は、よく言えば几帳面、悪く言えば融通の利かない男で、一度決めたスケジュールを曲げることを病的なまでに嫌う子供であった。
その日のスケジュールは「『イエスタデイ』が入っているLPを買うこと」だ。
そのために、わざわざ学生服まで来て商店街に来たんだ。

 そうそう、信じられない話だが、当事の僕の中学では、父兄同伴でない場合、商店街に行くときには学生服の着用を義務付けられていたのだ。

 そして几帳面な僕は、もったいないという気持ちを押し殺して、スケジュールどおりに行動することを選択した。
「わかりました。これ買います」
そしてレジに向かい、2,500円を差し出すと・・・

 「あの、これ2枚組なので2,500円じゃお金足りませんけど」

 な、なんと絶望的なお言葉!その日の僕のスケジュールでは、「イエスタデイ」が入っているLPを買わなければならないのだ!
しかし、「お金が足りないために、お金を取りに一度家に戻って、再びレコード屋に来る」というスケジュールは残念ながら立てていなかった。
しかるに、その気になれなかった。

 ここが、所詮中学1年生の頭脳であるが(いや、単に僕が馬鹿だったのか?)、『赤』が前期の「傑作選」であるなら、前期のLPをくまなく探していけば、「イエスタデイ」が入っているLPがあるはず。しかし、こうした思考は当事の僕にはまだできなかった。「イエスタデイ」は『赤』にしか入っていない曲、と思い込んでしまった。

 どちらに転んでもスケジュールの変更だ。あー!もうどうでもいい!そうだ、一層のことビートルズの最初のLPを買うことにしよう。もう、いいや。それでいいや。

 几帳面な人間とは、ひとたび予期せぬことが起きるとこうももろいのか、しかし。

 そして、① というラベルが貼られている「Please Please Me」を2,500円払って手に取った。もうやけくそである。

 その日の夜に、「音楽を聴いて鳥肌が立つ」という人生初の体験をすることなど、家路に急ぐ僕には知る由もなかった。

2004年09月14日

ビートルズってロシア人? Episode 6

46f3d305.jpg「えっ?別に好きじゃないですよ。この『シー・ラブズ・ユー』は好きだけど、この前ビートルズで1番いいってレコードを友達が僕んちに持ってきたけど、最初の曲聞いてる途中で寝ちゃったし」

 この教師、確かにすぐに僕に手は上げたが、実は入学以来、僕たちは結構気があい、気軽によもやま話ができる間柄であった。

 「別に好きじゃないって、お前『Yesterday』を聞いても何とも思わなかったのか?」

 「お前の友達のレコードの中にも入っていたはずだけどなー(ちなみに「青」にはYesterdayは入っていない。入っているのは「赤」の方である。まったく、鼻の穴の大マヌケ!)」

と、先生は、僕が聞いたアルバムのタイトルも確認せずに断定してしまった。

 「何と言っても、Yesterdayはビートルズで一番売れた曲だからなー(ちなみに一番売れたのはHey Judeである)」

 「先生なんか、初めて『Yesterday』を聞いたときには鳥肌が立ってなー。そうだ、お前、さっそく『Yesterday』を聞いてみろ。お前小遣いはいくらだ。月500円ぐらいはもらってんだろ。だったらシングルが買えるじゃんか」

 「そうだ、『Yesterday』を聞いたらさっそく先生に感想を聞かせてくれ」

と、ここまで一気にまくし立てると、先生はスリッパをパタパタさせながら、「ろっくんいぇーいいぇーいいぇー」と楽しげにハミングしながら教室を後にしてしまった(これホントの話)。
 どうやら 社会科の教師のヒアリング力というのもたいしたことがないらしい。

一方、僕はと言うと、

(1)「いえすたでいを買って聞く」
(2)「すると鳥肌が立つ」
(3)「ゆえに僕はビートルズが好きになる」

お得意の三段論法の世界に入り込んでしまった。

 何はともあれ「いえすたでい」だ。真っ白な灰になるまで燃え尽きたOb-La-Di,Ob-La-Daでも、耳がOctopus's GardenになってしまったShe Loves Youでも、決して鳥肌など立つことはなかった。

それがどうだ!「いえすたでい」を聞けば、この初夏のぽかぽか陽気に鳥肌立てて、友達からは「お前って大人じゃーん」と熱い視線を一身に浴びることができる。この時の僕は既に、冷めた視線で気味悪がられるだけ、というしごく当然の反応さえ想像できないほど冷静な判断力を失っていた。

 二度にも渡る奇行に踊らされてしまった鼻の穴にも、
 「お前、音楽聞いて鳥肌が立つような、そして感涙にむせぶような、そんな経験したことあるか?」

 「お前Yesterdayを聞いてみろよ。あの激しいビートはOb-La-Di,Ob-La-Daの比じゃないぜ。何と言ってもビートルズで1番売れた曲だからなー(くどいようだが1番売れたのはHey Judeである)」

と、往復ビンタを食らわして鼻血ブーしてもまだお釣りが来るような逆襲ができる。

 さあ、鍵は手に入れた。「Yesterday」と言う名の鍵を。
 そしていよいよ次回、その扉を開けるべく僕はお小遣いを持ってレコード店に馳せ参ずることになるのだが、「シナリオライターよ!何故にあなたは僕にそこまで試練をお与えになるのか!」

 そう、レコード店で僕は再び、大きな障壁にはばまれ立ち往生することとなるのである。何故に僕は七転八倒する羽目となるのか。その謎を解く鍵は、次回の話の中に落ちている。

2004年09月07日

ビートルズってロシア人? Episode 5

e7758aa9.jpg 「たら・れば」で歴史を考察するほど愚かなことはない。

 仮に、「もし1956年6月15日、ウールトン教会のパーティーでJohnとPaulの2人が出会わずにいたら、その後の人類の音楽は、いや人類の文化はどのような歴史をたどっていたであろうか?」と頭を悩ましてみたところで、その努力は徒労に終わるだろう。

 なぜなら、あの日あの場所で2人が出会うことは、偶然でもなんでもなく、運命であり、書き直しのきかないシナリオであるからだ。そう、この世にはこうした粋なシナリオを書く演出家のような者が存在しているのではないか。僕は時々そう思う。

 では、僕と僕の友人である例の鼻の穴の人生を演出しているのは? これはどうやら、とんだ三文作家であると思われる。

 それこそ、起承転結の「結」から話を始めるような僕たちのシナリオライターの演出のおかげで、僕はビートルズが「最後」にレコーディングした『Abbey Road』を「最初」に聞かされ(発売日としては『Let It Be』が最後だが、最後にレコーディングされたアルバムは『Abbey Road』である)、その次には、「初期」の傑作選の「赤」ではなく、「後期」の傑作選の「青」を聞かされ、まさしくシナリオライターの思惑通り、完膚なきまでにビートルズに対する興味を失う結果とあいなった。

 「青」のすとろべりーなんたらでクロロホルムよろしく深い眠りに陥ってしまった僕は、今だに彼が本当に「そのまま」帰宅したのか、実を言うと胸騒ぎを禁じ得ない。彼もそろそろ「あっち」の方の本能も芽生え始めている年頃である。目の前でいたいけな美少年が甘い吐息(じゃなくて寝息)を立てているときに、例のごとく鼻の穴をおっぴろげて、僕の愛らしい寝顔を鼻息荒く覗き込んでいたのではないかと考えると・・・。よそう・・・。虚しい・・・。

 てな訳で、ビートルズの存在自体は忘却の彼方の僕ではあったが、その後もしばらくオンエアーされ続けていたフィルムコンサートのCMのおかげでShe Loves You を口ずさむことだけは日課となっていた。

 CMが継続していたということは、つまりは、チケットが売れ残っていたことを意味するのだが、まさかその後自分がそのフィルムコンサートを観にいくことになろうとは。ホントに人生ってドラマチック。

 しかし、それにしても中学1年生の英語のヒアリング力などお粗末なものである。

 ある日教室で、「ろっくんいぇーいいぇーいいぇー(実際は「She loves you yea! yea! yea!」)と日課をこなしていたら、「お?お前ビートルズが好きか?」と背後から声がした。社会科が専門の僕の担任、そう、「大村!『かんとくふいきとどき』だ!」と意味のわからないことばとともにすぐに僕に手を上げる例の教師であった。

 JohnとPaulはパーティーが開かれる教会で出会った。そして、僕と教師は授業が開かれる教室で出会った。ちょっと無理があるが、この2つの出会いを偶然で片付けるには、少しばかり惜しい気がする。

 なぜなら、これこそ僕にとってはいわゆる「三度目の正直」、ビートルマニアへの鍵を手に入れた極めて歴史的な瞬間であったからだ。

 順序は狂ったが、「結転承起」の「起」がやって来た。

2004年08月31日

ビートルズってロシア人? Episode 4

c2e6f605.gif 当時学級委員だった僕は、卑怯なようだが、とっさに自分の身の危険を感じた。この鼻の穴が先生にぼこぼこにされようが、そんなの知ったことではない。自業自得というものだ(当時の僕は、もちろんこんな四字熟語は知らなかったが)。
 しかし、当時の担任には、何かあると「監督不行届き」ということで、学級委員だった僕も随分と殴られたものだ。
「『かんとくふいきとどき』って何?」と思いながら、訳もわからずに殴られていた僕は、素直だったのか、単なる無知だったのか。

 いずれにせよ、先生の鉄拳覚悟でLPを4枚も持ち込んだ鼻の穴の周りは、たちまち黒山の人だかりとなった。彼の勇気に敬意を表する者。「ほらほら、見つかったら殴られるぞぉ~、こいつ」と鉄拳制裁を楽しみにする者。

 理由はさまざまだが、学級委員だった僕は「大村!『かんとくふいきとどき』だ!」と意味のわからないことばとともに自分まで殴られるのではと、もう心臓がばくばく。まったく、この鼻の穴、余計なことをしてくれる。

 仕方がないので、僕はドア越しに先生が突然入ってこないかどうか見張りをしていたら、誰かが叫んだ。

「これビートルズじゃん!」(うっ・・・)

「へー、ビートルズってこんな顔してるんだ」(何?ど、どんな顔?)

「へー、ビートルズって四人組なんだ」(四人組?ひょっとして外国版フォーリーブス?)

「え?あのOb-La-Di,Ob-La-Daの?私にもそのLP見せて」(お、俺だって見たい!)

 誘惑に負けた僕は、見張りをやめてみんなの輪の中に入ろうとしたが、ビートルズのLPを見てひとしきり血と涙のフォークダンスの猛特訓に思いを馳せて盛り上がっていた彼らは、すでに方々に散っていた。『いけてるダンサーズ』は、かくも飽きっぽいのだ。

 命がけでLPを持ち込んだ鼻の穴も、ヒーローでいられたのはほんの数十秒。「危険物を校内に持ち込んだ単なる馬鹿」に成り下がった彼の周りには静寂が訪れていた。

 いや、1人、鼻の穴から離れない者がいる。彼は、喧燥が去るのを待ちわびていたかのように声を発した。

「へぇー、赤と青じゃん。お前どっちを大村に聞かせるつもり?」

「もちろん青だよ。」

「いやー。初めての人には赤の方がいいよ。」

「いや。ビートルズのホントの凄さは青じゃなきゃ分かんないよ。」

 ところで、「赤」や「青」がワインの話でないことは、ビートルマニアなら容易に察しがつくに違いない(ん?ワインは赤と白か)。当時は、ビートルズの前期の代表曲を集めた『The Beatles 1962-1966』と、後期の代表曲を集めた『The Beatles 1967-1970』の2枚のアルバムがビートルマニアへの登竜門とされており、それぞれジャケットの色から「赤」「青」と呼ばれていた。

 そこで質問。ビートルマニアのみなさん。あなたがもし中学1年生にビートルズを初体験させるとするならば、どちらのアルバムを推薦するであろうか?まぁ、99.99%が「赤」と答えるであろう。先に「青」を薦めるなど、食前に食後酒を薦めるようなもの。これがレストランなら、たちまち一つ星である。

 しかし、その時の僕は、鼻の穴が残りの0.01%に属する一つ星人間であり、そのために、またもやビートルマニアになり損ねようとは知る由もなかった。

 鼻の穴の剣幕が余りにすごいので、僕たちは「赤」ではなく「青」を試聴することになった。威勢のよさを基準に選んだら、一つ星レストランに当たってしまったのだ。本物の高級レストランは、決して威勢などよくないのに・・・。

 夕方、レコードをターンテーブルに乗せるときに、鼻の穴を極限にまで広げて言った彼のセリフを、僕はそっくりそのまま記憶している。
「こっちのレコードの方が後から作られたんだから音楽的に完成度が高いんだ」

 しかし、すぐに流れてきたStrawberry Fields Foreverのけだるいイントロが、部活動で疲れ果てた体に妙に心地よい。

「ごめん、俺には完成度が高すぎるようだ」

そう心の中でつぶやきながら、僕は深い眠りに陥る方を迷わず選択した。

 僕が目を覚ましたのは、鼻の穴が「赤」と「青」を抱えて帰宅した後であった。料理が客の口に合わないときに、悪いのは客の口であろうか、はたまた料理であろうか。一つ星レストランのシェフは、別の料理、すなわち「赤」を薦めることもなく職場を放棄してしまった。

 「先日の『シュッ ボンボンボボボーン タタタタタタタタタタ』という曲といい、今日の曲といい、ビートルズの曲って暗いんだな。俺はやっぱり、ピンクレディー一筋で行こう!浮気してごめんよぉ~、ミーちゃん!」

 ビートルズがイギリス人であることを知って、また、Please Please MeやShe Loves Youがビートルズの曲であることを知って、ビートルマニアへの扉に手をかけていながら、しかしその扉を開けることができない僕。そう、鼻の穴の度重なる絶妙なる妨害のおかげで・・・。

 しかし、そんな僕も、ついにその扉を開ける鍵を手に入れることとなるのだが、それはまたのお話。

2004年08月24日

ビートルズってロシア人? Episode 3

d9f92990.jpg 前回僕は、

(1)「Ob-La-Di Ob-La-Daはフォークダンスナンバーである」
(2)「フォークダンスナンバーを作るのはロシア人である」
(3)「ゆえに、ビートルズはロシア人である」

という、とても中学1年生とは思えない理路整然とした三段論法によって、ビートルズをロシア人であると決めつけている。

 また、前々回僕は、「『よし、ビートルズを聞こう』と意識して聞いた最初のナンバーはCome Togetherだった」と述べ、それが「自分が予想していたビートルズサウンドとはかけ離れていた」とのたまわっているが、これでは、Come Togetherがフォークダンスっぽくないために「自分の予想とはかけ離れていた」と僕が感じたかのように思われてしまうが、実はそうではない。

 「ビートルズ=ロシア人」という僕の誤った歴史観を正してくれたのは、何を隠そう、我が家で鼻の穴をパフパフさせていた例の友人である。同時に僕は、やはりその彼によって、Ob-La-Di,Ob-La-Da以前に少なくとも2曲、ビートルズナンバーを聞いていたことを知る。

 その1曲はPlease Please Me(「Come on!(Come on!)Come on!(Come on!)Come on!(Come on!)Come on!(Come on!)」というおなじみの曲です)。
 「おい、大村。三ツ矢サイダーの宣伝の後ろで流れてるのはビートルズの曲だぞ(CMやBGMなどという洒落た単語は、当時の鼻の穴の辞書にはまだなかった)」

 そしてもう1曲はShe Loves You(「She loves you yea!yea!yea!」というおなじみの曲です)。

 今ではちょっと考えにくいが、当時は「フィルムコンサート」なる催しが結構盛んで、呼んでも来てくれそうにない大物ミュージシャンのコンサートフィルムをみんなで楽しもうという企画があちこちで行われており、そのビートルズ・フィルムコンサートのテレビCMのBGMがShe Loves Youであった(リンゴ・スターなら、「大ホールですよ!」とでも説得すれば、静岡市民会館に来てくれたかもしれないが(笑)。

 この2曲がいたく気に入っていた僕は、少し腰を据えてビートルズを聞いてみたくなり、鼻の穴にビートルズのレコード持参で遊びに来るようお願いをする。

 今にして思うと、この「お願い」がいけなかったのか。後にも先にも人にお願いなどされたことのない鼻の穴をすっかり舞い上がらせてしまったのだから。「間違ったかも知れない」の一言を残して『Abbey Road』と爆死する羽目となった彼には少し気の毒なことをした。

 あと、ここで1つ大切なことを補足しなければならない。僕がCome Togetherを聞いて「これは違うぞ」と思ったのは、それが、Ob-La-Di,Ob-La-Daとは異質であったからではなく、快活なPlease Please MeやShe Loves Youとは異質であったためである(随分と遠回りをしたが、やっと話が振り出しに戻ってくれた)。

 ところがこの鼻の穴、なんのなんの、そんなことでめげるような男ではなかった。ある土曜日、「今日部活が終わったらこのLPを聞こう」と2枚のLPを持参で登校してきた。

 実のところ、当時の僕の中学は結構「持ち物」に厳しくて、勉学に関係ない物の校内への持ち込みは言語道断みたいな雰囲気があった。また、そのことで先生が生徒に手を上げることも珍しくなかったが、しかしそれも、当時の僕達には「愛のむち」であった(これは皮肉ではなく、僕は真面目にそう思っている)。

 たとえば、コミック1冊かばんに忍ばせるだけで、今風に言えば、女の子が淡いピンクの口紅をして登校するぐらいの勇気がいった時代である。そんな時代に、2枚組みのLPを2セット校内に持ち込んでみんなに堂々と見せびらかすのだから、これも今風に言えば、まじめな学級委員の女の子が、ある日突然黒髪をピンクに染めて、鼻にはピアスのいでたちで登校してきたようなものである。

 相当に彼は、我が家で鼻の穴をパフパフさせたのが悔しかったとみえる。

 何を大げさなと思われるかもしれないが、LPを校内に持ち込むのは、本当にそれほど危険極まりない行為だったのだ。

 さぁ、鼻の穴の身に何が起きたのか。先生に見つかって鉄拳でも食らったのか。それはまたのお話。

2004年08月17日

ビートルズってロシア人? Episode 2

e305f09a.jpg フォークダンスと問われて「マイムマイム」や「オクラホマミキサー」と答えるようなら、あなた方のフォークダンスキャリアなどたかが知れている。僕なら、迷わずにこう即答するであろう

「Ob-La-Di,Ob-La-Da」

 そう、僕たち『いけてるダンサーズ』の十八番は、マイムでもオクラでもなく、Ob-La-Di~だったのだ。

 誰がOb-La-Di~に振り付けを施こそうなどと酔狂なことを思い付いたのかは知りたくもないが、Ob-La-Di~は、指先からつま先にまで絶えず神経を集中しながらステップを刻み、その上、大きな人の輪が崩れることのないように、外側の人は左回りに、内側の人は右回りに弧を描いていく、非常に難易度の高い異色フォークダンスナンバーであった。

 このOb-La-Di~を難なくこなす僕たちに言わせれば、マイムやオクラはダンスのうちに入りはしない。

 キャンプファイアーも佳境を向かえ、練習の成果を遺憾なく発揮した『いけてるダンサーズ』が喜びに打ち震えていたまさにその時、ある先生がスピーカーを手に声を発した。

 「みなさん。本当に上手に踊れましたねー。」

 入学以来、まともな勉強もせずに踊ってばかりいるんだから、上手くて当たり前である。

 しかし、ひとたび上機嫌となった先生を制止するのはかなり難しい。

 「ところでみなさん、Ob-La-Di,Ob-La-Daは誰が作った曲か知ってますかー?」

 今にして思えば、その先生にとっては会心の質問だったに違いない。くりくり頭の男子生徒あたりが(当時僕の中学では、男子は丸坊主、女子はお下げか三つ編みが原則であった)、まだにきびもない愛くるしい笑顔で、声高らかに「びーとるずー」と楽しげに答えるのを期待していたのだろう。もしその先生が熱烈なビートルズファンであったら、可愛い教え子のそんな反響はもう恍惚ものであったに違いない。

 しかし、そんな先生のもくろみは見事に崩れ去ることとなる。残念ながら、入学以来フォークダンス三昧で、アルファベットすら満足に書けない約200名の英語音痴には少々酷な質問であったようだ。もっとも、英語音痴でなくとも「おぶらでおぶらだ」と聞いてアルファベットを連想するのは至難の業であるが。

 この後、定番の「遠き山に日は落ちて(By ドボルザーク)」を大合唱するスケジュールが組まれていた「くりくり&おかっぱ集団」は、その前に「知りませーん」を大合唱するはめとなった。思わぬスケジュールの変更である。

 ここで思い直してみるに、そのときに1%ぐらいは正解を答えていたのかも知れない。しかし、得てして「知りませーん」の大合唱にはかなわない。これを「常識」と言うのではないか。

 ちなみに、質問そっちのけで「おぶらでおぶらだ」のステップを夢中で反復していた僕の横のおかっぱの姿は、今なお脳裏にしっかりと焼き付いている。「おぶらでおぶらだ」には、『いけてるダンサー』をそこまでに駆り立てる何かがあるのである。

 ちょっと話を引っ張りすぎた感があるが、とにかく当ての外れた先生が「ビートルズですね」と自ら答えるのを聞き、

 「びーとるず?聞いたことあるな。フォークダンスの曲を作るってことはロシア人か」

と、僕はひとまず自己完結するに至るのである。幼少のみぎりからマイムマイムあたりを嗜んでいた僕が、フォークダンスの曲を作るのはロシア人であるという認識を持っていたとしても、責められるいわれなどない。

 なお、
 
タッタカ タッタカ タッタッタッター(タの数は合ってるかな?)
 
 とOb-La-Di~のイントロがなるだけで、条件反射のように陶酔状態に陥る当時の僕たちは、「イジメ」などとはてんで無縁であったことは言うまでもない。

 僕たち『いけてるダンサーズ』は、キャンプファイアーの炎よりも一足早く、真っ白な灰と燃え尽きていた。

2004年08月10日

ビートルズってロシア人? Episode 1

a80504cd.jpg 僕が「よし、ビートルズを聞こう」と意識して聞いた最初のナンバーはCome Togetherだった。なぜCome Togetherだったのか?別に特別な理由があったわけではなく、友人が我が家に持って来たそのアルバムが『Abbey Road』であった。そして、そのA面1曲目がそれであった、ただそれだけに過ぎない。

 「これがビートルズだ!」

得意満面のその友人の鼻の穴は大きく膨らんでいた。

しかし、
 
シュッ ボンボンボボボーン タタタタタタタタタタ(タの数は合ってるかな?)
 
 というあのくらーいイントロを聞いたときには、自分が予想していたビートルズサウンドとはかけ離れていて、正直かなり戸惑った。そして僕は、その戸惑いをそのまま彼にぶつけてみた。

「これってホントにビートルズ?」

 彼は、カセットテープのケースを眺めながらしばし考え込んでいた。そしてつぶやいた。

 「間違ったかも知れない。」

何のことはない、彼もよく知らなかったのだ。かわいそうに、彼の鼻の穴は元の大きさに力なくしぼんでいた
 ところで、なぜ僕が生意気にも「これがビートルズサウンドだ」というイメージを、彼の鼻の穴をパフパフいわせる前から持ち得たのか。僕が「ビートルズ」という存在を知ったのはいつだったか、実は自分でもさっぱり覚えていない。

 ただ、ある日ある場所で「ビートルズ」という言葉を聞いたときに、「あっ、その名前知ってるー」と思ったことだけは鮮明に覚えている。つまり、当然それよりも前に、何らかの形で「ビートルズ」ということばを耳にしていたわけだ。

 その「ある日」というのは、中学1年生の1学期、確か5月であったと記憶している。

 当時僕の中学では、新入生にはフォークダンスの猛特訓が課されていた。何のためのフォークダンスだったのか、途方もない歳月が経過した今となってはその理由は永久(とわ)の謎と化したが、とにかく僕たちは、3~4曲のレパートリーを難なくこなす、結構『いけてるダンサー』であった。

 そして、入学から1ヶ月ちょっと経過したある日、ついにその猛特訓の成果をお披露目する機会が僕たちに訪れることとなる。一泊二日の「健康教室」。場所は、富士山のふもとの「富士サファリパーク」に程近い「丸火少年自然の家」。

 もっとも、「お披露目」とは名ばかりで、別に聴衆がいるわけでもなく、要はステージが、体育館からその丸火なんとかに移っただけのことである。

 ところでみなさんは、フォークダンスと聞いてどの曲を真っ先に思い浮かべるであろうか。まぁ、「マイムマイム」や「オクラホマミキサー」あたりが常識的な線か。しかし世の中、いつでも常識が通用するとは限らない。

 僕たちはとにかく『いけてるダンサー』である。マイムやオクラホマなど、へそで茶を沸かし、「粗茶ですが召し上がれ」てなものである。フォークダンスと問われたら、「あの名曲」を即答するようでなければ、あなた方のフォークダンスキャリアなどたかが知れている。

 では、「あの名曲」とは何か。それはまたのお話。